アーティスト ステイトメント
「最も古い素材で、現在を作る」
毛塚友梨は父が陶芸家だったことから、幼いころから父のアトリエで粘土遊びを日常的にしていた。
大学では、工芸科に進学し、陶芸を学んだ。大学の陶芸専攻の課題に従い、主に電動ろくろを使って器を作っていたが、器では自分の表現したいものが作れない出来ないことに気づく。
それ以来、彼女は陶芸でインスタレーション作品など、コンセプトを持った陶器の作品を制作している。作品のモチーフは生活用品、室内設備などだ。人間の精神的な問題提起、人間の感情の動き、社会的通念への懐疑・皮肉、哲学的考察などをコンセプトとしている。
彼女の作品は、陶芸としては珍しく、コンセプトを持つインスタレーション作品だ。現代陶芸は作品の意図や制作された背景よりも、自律性と形式的要素(色彩・形態など)を重視する傾向がある。最近では、コンセプトを持つ陶芸作品やインスタレーションも作られるようになってきたが、それらは少数派である。
彼女はコンセプトのみではなく、形式的要素も大切にしている。陶芸では限定した素材と深く関わり、素材の質感などの特性を表現の中に取り入れようという傾向があるが、彼女も陶器を素材として魅力を感じ、積極的に土の質感を作品に活かそうとしている。
彼女は陶芸の技法の中でも最も原始的な技法の一つである『ひもづくり』でほとんどの作品を作っている。これは、1万年以上前の遺跡などから発見された土器でも使われている技法である。粘土をひも状に伸ばし、それを少しづつ積み重ねていく。普通はひもを積み上げた模様を消してしまうのだが、彼女はそれをわざと残して、渦の様な模様にしている。粘土を積み上げた痕跡を残したままにすることで、個人や過去の人間が陶芸と共に歩んできた歴史の積み重ねを暗示している。
現在私たちの生きる時代は、デジタル技術の発達により、インターネット、データ社会など非物質的な世界が急激に拡大していっている。それに比べ、彼女の技法は非常に原始的だ。
しかし、彼女は色々なものがデジタルに置き換わっても、人間が物質的な存在である限り、物質に対する感受性、欲求は無くならないと考えている。現在、仕事がほとんどPCなどで行われるようになった多くの人が、自分の手で物を形作りたい欲求を持ち、彼女の陶芸教室に陶芸を学びにやってくる。手で形作ることは古代から続いてきた人間の営みであり、陶芸は人間が関わってきた中で最も古い素材の一つである。その陶芸で作品を作ることは彼女にとって意味深いことだ。
土器が、古代の思想や生活などの事象を反映するものならば、彼女の作品は現代の事象を反映した土器だ。彼女は、原始的な素材をつかい、現代的なものを作ることにより、現在を生きる人間の営みを表現している。